ライバルご用心



(なんであいつは後輩にあんなにモテるんだよ!?)

華原雅紀はイライラしながら、椅子をぎしぎし鳴らした。

その周りに漂う不機嫌オーラたるや、『クラスの中心的な人気者』の華原雅紀のイメージとはほど遠い。

しかし雅紀本人は、生憎それに気付くどころの話ではなかったし、そんな事は実際どうでもよかった。

そんな彼にとって『その他大勢』の評価などより、問題なのは視線の先で現在繰り広げられている会話の成り行きの方がよっぽど問題だ。

雅紀の視線の先、教室の入り口で演劇部の後輩と、雅紀の彼女である桜川ヒトミの会話の流れの方が。

―― 彼女が後輩達に浚われたのはついさっき。
















「ヒトミ!」

HRの終わりと同時に、自分の席を立って雅紀が呼んだ名前に、ヒトミがビックリしたように目を丸くする。

「ど、どうしたの?」

「ごめん、驚かせた?」

「別に平気だけど、何か急いでる?」

きょとんっとしているヒトミに、雅紀は自然と頬が緩むのを感じた。

出会った頃から外見はものの見事にスッキリしたヒトミだが、彼女の持っている雰囲気はちっとも変わらない。

雅紀が唯一、本当の自分で接する事ができる人。

(こいつの前だと、ホント、無理しなくなっちゃったよな、俺。)

そんな事を実感しつつ、ヒトミのすぐ前まで近づく。

不思議そうなヒトミの顔が、雅紀につられたように笑顔になる。

今日は、授業は半日だけ。

これから午後は部活もなくて、この笑顔を独り占めできる。

・・・・この調子なら。

「急いでるわけじゃないんだけど。あのさ今日・・・・」

『独り占め』を確信しつつ、雅紀が口を開きかけた、ちょうどその時

「ヒトミ!」

ヒトミの親友の一人、理恵の声に雅紀はぎくっとした。

(まさか)

「後輩の子が用だって!」

「え?あ、ごめんね、雅紀くん。ちょっと行ってくる。」

「あっ」

さっさと雅紀の前を立ち上がって教室の入り口から顔を覗かせている1年生らしい女の子数人の方へ行ってしまったヒトミを、中途半端に手を上げた格好のまま見送った雅紀は思わず頭を抱えた。

(またか!)

実はこういうパターンは初めてじゃない。

つきあい始めるようになる前から薄々感じていたのだが、ヒトミは結構後輩に慕われている。

たぶん面倒見が良く、お人好しなあたりが好かれるのだろう。

実際、その辺にすくわれた雅紀としてもそれは認める所だし、「らしいよな」などと最初は余裕をかましていられた。

・・・・が。

これが頻繁になればたまらない。

せっかく二人で過ごせる時間を横からかっさらわれる事もしばしばなのだ。

だから今日は先手を打って・・・・と思ったのに、この始末。

(あー、もう、早く終われ!)

と、ため息をつきながら内心叫んだ雅紀など知るよしもなく、ヒトミと後輩達の話は早10分以上になっている。

「って言ってたんですよ、先輩。」

「ええ、本当?」

「ホントですってば。颯大くんもそう言ってましたし。」

「ああ、言いそうだよね〜。」

盛り上がっている女の子達の会話に出てきた、ヒトミに懐いている後輩の筆頭の名前に、雅紀の機嫌がまた一段降下する。

(たく・・・・)

置いて行かれたまま、しかたなくヒトミの机に座って、恨めしげな視線を送ってみても、彼女は一向に気付く気配もない。

楽しそうに後輩としゃべっているヒトミの姿は嫌いじゃないけど、一緒にいる時間が減っていくのは面白くない。

イライライラ

ぎしぎしぎし

「・・で、こないだ先輩の持ってたひよこのポーチって」

「ああ、あれはね、マーブルってお店で買ったんだよ。」

イライラ

ぎしぎし

「いいなー。私も欲しいです。」

「私もー。」

イライラ

ぎしぎし

「場所ってどこだか教えてくれますか?」

ぎし・・・・がたっ!

ずっと揺らしていた椅子を後ろにずらして雅紀は立ち上がった。

この話の展開から行くと、次にヒトミが言う言葉は、絶対・・・・














「じゃ、一緒に行」

「ダメ。」
















きっぱり、はっきり、ヒトミの言葉を遮った声にヒトミが驚いて振り向く振り向くより先に、雅紀は両手で首を抱えるように彼女を抱き寄せた。

「ぅわあっ!?な、雅紀くん!?」

「「「!?」」」

驚くというより、ものすごく焦ったヒトミの声と目をまん丸くする彼女の後輩達を見ながら、雅紀はぎゅっとヒトミを抱きしめる。

赤くなってジタバタするヒトミを逃がさないように。

(逃がすか。)

他の男なんかもっての他。

女の子だって、ある意味彼女との時間を取り合うライバルだ。

だから。

「ちょ、雅紀くん!離して〜!」

「だから、ダメだって。」

雅紀から見える耳まで真っ赤にして暴れるヒトミを、しっかり捕まえて。

『人当たりのいい、人気者の華原くん』の顔を作って、雅紀は後輩の女の子達にウィンクをひとつと一緒に。

「ごめん。こいつ、俺のだから。またにしてもらっていい?」

―― 爽やかに牽制を繰り出したのだった





















〜 おまけ 〜

「・・・・華原くん、なんか変わったよね〜。」

「まあ、ヒトミの外見の変わり様ほどじゃないけどね。
・・・・あ、百合香がハンカチ噛んでる。」

「き〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!」
















                                               〜 END 〜















― あとがき ―
ラブレボ初創作。・・・・何が書きたいんでしょう、自分(- -;)
確か「華原は恋人になったら独占欲強そうだよね〜」という発想からだった・・・・はず。